ある作品が人に及ぼす影響というのは、わりと無視できないこともある。
それが制作途中の作品に及ぼしたりすると面白いことになったりもする。 先日、エヴァンゲリオンの新劇場版を観てくれ~という緒方恵美さんのメールを受け取った。エヴァンゲリオン劇場版というと、シンジ君の自慰が強烈な記憶として残っていて、何回かのリテイクの後にあの名シーンが出来上がったという緒方さんの飲み屋の席での話を聞いて、感慨深かった記憶がある。 テレビ版の記憶ともなるとかなり古い記憶になり、僕が某社でYU-NOというゲームを制作していたときまで遡る。僕はシナリオだけでなくスクリプトもまとめて作ってしまうタイプなので、BGMなどを聴きながらトライ&エラーを繰り返していたわけだが、どうも休憩室の方がガヤガヤと騒がしくてBGMがよく聴き取れない。 なんだと思って見に行ってみると、みっちりと人が椅子に座って、ある方向を向いているではないか。皆が向いている方向に僕も目を向けてみると、そこにはちんまりとしたテレビが一台置いてあった。 ガチャガチャとCMを流していて、まさかこのCMを皆が観ているわけでもなかろう。 「何やってんの?」 そう訊いてみるとと、手近なとこにいた若いお兄ちゃんが僕の方に向き直って、「エヴァっすよエヴァ! 最終回なんですよ。どうやって終わらせるのか興味津々で!」 目を輝かせながら語るその兄さんは、観る前からテンション高めでアゲアゲである。よくよく周りを見回すと、ほとんど全ての人間がざわめいて、食い入るように画面に見入っている。さながら小さなシアターのようであった。 当時から周りの人間に、面白いから観ろと言われていたのだが、残念ながら僕はそのときエヴァをリアルタイムで観ていなかった。綾波レイというキャラが物凄く人気という話は聴いていたので、よし、その性格や物腰を神奈というキャラに使おう! などと考えた記憶も残っている。 当時は恋愛ゲームが市場を席巻していたので、もともとの神奈は犬ちっくな妹のような性格で、「お兄ちゃん」と主人公を呼んでしまうようなキャラだったのであるが、180度グルリと方向転換をしてしまった。 もっとも制作が終わってから、レンタルビデオ屋でまとめて借りて観たら、全然綾波に似てねーじゃんと苦笑したものである。やっぱり自分の目で確認をしなきゃね。 それはそうと、件の小さなシアターがどうなったかというと、番組が終わった時刻にあわせてぞろぞろと休憩室から人が出てくるわけだが、ほとんど全ての人間の顔が、青ざめていた。 ある者はうつむきながら、ある者は壁に向かってブツブツと独り言を、またある者は涙まで浮かべていたわけで、いったい彼らに何があったのかと当時は困惑したものである(笑)。今は何となく分かるけどね。 さて、当時この番組の影響力というのは凄まじいものがあったそうで、例えばFF7のクラウドというキャラも、作品前半ではクールでニヒルな性格だったのに、後半になるとやたらと鬱展開の悩みモード全開になってしまう。どうもこれは、制作途中でライターがエヴァを観たせいだ、という話を、スクウェア関係者からまことしやかに聞いたりもした。 人間の記憶というのは、忘れ去っていると思うものでも、何かのきっかけで芋づる式に再生されるもので、その記憶が果たして正確か否かはともかく、緒方さんの一通のメールは、当時の僕の考え方や生活スタイルまで思い起こさせた。 そんなわけで、当時の興奮をもう一度味わおうと、久々に劇場へ足を向けよう。青ざめて劇場から出てこないことを祈る(笑)
by abelsoftware
| 2007-09-03 10:00
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